「あの日」からのタイムライン

タイムライン@東京芸術劇場、3月30日。演出 藤田貴大、音楽 大友良英、振り付け 酒井幸菜、写真 石川直樹、衣装 スズキタカユキ、出演 福島の中高生


市街地が描かれた舞台で「あの日」以降の1日が描かれる。街の上を行き来する彼女たちは雲のようでもあり、具体的な個人のようでもあるところを行き来するようだ。何より感銘を受けたのはその演奏。ほぼ90分間歌と演奏が続き、それを12人のアンサンブルがキープする。さりげないギターフレーズからジンタのような不規則なリズムまで、ギター、ベース、ドラム、パーカッション、オルガン、リコーダー含む吹奏楽器。最後に強く連打されるドラムの音も印象的で、その音楽と歌が、舞台である市街地の現在と未来を往還させていく。


印象的な場面は多くあるが、特に中盤、ゲームの中で当たった一人が自分の名前の由来をいうところで、ダンスに合わせて(それを即興コンダクションに見立てて)演奏していくところは(最後にそれが群舞になっていくところまで)、プロも超えた演奏が繰り広げられていたと思う。
付け加えれば、ダンスと音楽、振り付けの関係は、しばしば音楽が先にあるとされるし、時折ダンスと即興が並行していくパフォーマンスもある。そのなかで、即興的なダンスがコンダクション(身振りが指揮)になり、集団即興が生まれ、それが群舞へとひろがっていくのは、とても価値のある稀有な試みの瞬間だったと思う。いいかえると、ダンス&振り付けと音楽が、その場で相互に刺激しあうようなダイナミックな形態だった、ということになる。で、もしかすれば、というかたぶんこのミュージカル劇の全体が作り方もふくめて同じような性格をもっているように思った。だから終わったあと、余韻もあるけど、清々しくもあった。


他にも即興的に展開されるシーンが少なくなく、それは上に書いたようなまるで彼女たちが雲であるという印象、うつろい変化して、なおそこにたゆたっている雲であるように思わせた。最後、その市街地の上の雲たちが、3月の寒気から歓喜を導き出して唱和していくその歌と演奏は、いうまでもなく終演後も余韻を残してなお漂っている。



もしかして関係者の人も多かったのかもしれないけど、見ず知らずの僕のような人にも何かのインパクトを残すものになっていて、参加者は、それを大手に振るうかどうかはさておき、秘かな誇りにしてもいいように思う。感動というか芸術的感動というべきだろうか、そういうものをつくりだす喜び、というのだろうか。(とはいえ、これは小難しいものじゃなくて、創作物にはどこにでもあるもの、ロックとか漫画とかにもある、そういうものだと思う。)その点も含めて、意欲的な内容と、建設的な成果を伴う、優れたプロジェクトだったと思う。それと、藤田さんや大友さん、石川さんは今も、これまでもたくさんの作品を手がけていて、その熱狂的なファンになるべきかどうかはわからないけど、これをきっかけにそれを見てみたりするのも良いように思うし、もちろんしなくても問題はない。
とても楽しかった。



2016予告動画
https://www.youtube.com/watch?v=yf0yh3EUqCs