付記

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 付記
 今年、明らかになったことは、音楽を聴くということが、情報社会にアクセスすることとほぼ同義になったことである。それは、単にダウンロードというのみではない。ライブ会場やスケジュールの情報、新作の発表の日程、音楽家の意見や演奏者の意図など、いわば必須の情報がすべてインターネットをとおして配布されている。それを聴き、感想や印象や批評をすることも、それと同じである。
 「かつてのテレビ時代が懐かしい」という人もいるかもしれない。が、いま起きていることは、そうしたテレビ(を通して音楽を得る)を中心とした状況を呑み込んでいくような、おおきなプロセスの一部なのかもしれない。実際、現在のテレビはインターネットとの接続を前提にしつつあるし、その先がどうなるかは、よく分からない。こうしたことについては、専門的な研究や意見があるだろう。
 いずれにせよ、こうした観点からリストのうち、1位から10位はすべて、ユーチューブ上のトラックにすべきだとおもわれた。正確には、それらをアップロードして流通している匿名の関係者があげられるべきかもしれないが、煩雑になるので避けることにした。とりあえず、今年のトップ10はすべて、そうしたユーチューブ上にあがっている有名匿名をふくめた無数のトラックに当てられることになっている。




 こうした観点とは、まったくちがった光景がみられたのが、追加リストにあげた多くのものである。
 とりわけ、実験音楽スクールの演奏については、実際に演奏者と作曲者、それに聴衆が、顔と顔をつきあわせることによって音楽ができている。あるいは、その場で演奏されて、ただ聴かれることだけを前提にした音楽がかなでられている。保存も再生も、かならずしも必要としていない音楽が、そこにはあるといってもよい。その曲目の多くは、どれもきわめて個性的なアイデアからできていて、また演奏される場所の特性を(ないしは空間性を)生かしたものもおおく含まれている。実際、その場かぎりの演奏を前提にした音楽は、その場所の体験と切り離すことができない。
 演奏家と聴衆と、さらにそこに会場の運営者をくわえてしかるべきだろう人々がひそやかに交流しているこのような場は、すくなくとも個人的にはきわめて希有だ。
 (つづく)




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