レーベル

もうすぐdoubtmusicからアンドリュー・ディアンジェロ・トリオというバンドの新譜が出るらしい。このトリオについてはまったく知らないが、いまから楽しみだ。懐が寒いので、すぐに購入できるかは分からないけれど。
そのレーベルから出ているからCDを買う、というのはこれまでこのdoubtmusicとジョン・ゾーンのtzadikしかない。それはものすごい音楽好きには馬鹿にされるレベルだろうし、他方でごく普通のポップスやロックを聴いている人にとってはまるっきり「?」というくらいのところかなと思う。普通にポップスやロックやジャズを聴いている人はむしろレーベルを移動するミュージシャンのCDを追っていくのであって、レーベルが出しているから買う、というのは逆転した変な買い方に見えるだろう。
しかし梅津和時のshow the frogはすごく良かった。というか、その発売前日にディスクユニオン新宿館で無料のライブがあって(CDを買ったので必ずしも無料ではないのかもしれないけど)、すごく近い距離で生の演奏を見ることができて嬉しかった。とくに、昔練習していた曲、というのを演奏していたときに、足をバン、と床に踏みつけて、それからものすごく盛り上がってとても楽しかった。たまたま個人的にあれこれあって、とても疲労困憊していたけど、聴いているうちに疲れが取れてしまった。すごく不思議な体験で、うまくいえないがとても良かった。
Tzadikも同じで、パンフレットに載っているCDはオビの説明を読んで、その人がよく知らなくても余裕があれば購入したり、アウトレットで見つけたりした。そうすることで、聴く音楽の幅がとても広がったことは間違いない。ジョン・ゾーンという名前を手がかりに、最初はどれから聞いていいのか分からなかった現代音楽やジャズやハードコアやエレクトロニカに入っていくことができた。もし知らなければ、自宅で若手演奏家によるユダヤ音楽をだらだら流す、ということはありえなかっただろう。
ただ、最近のジョン・ゾーンの活動の意味については、なかなか良く分からないことが多い。ネイキッド・シティからマサダが出ていた頃までについては、ごく普通に本屋を探せば取り上げている文章につきあたるけれど、とくにここ5年くらいの活動についてはほとんど分からない。オビの短い文章を見てあれやこれやとイメージするしかない。とくに、魔術をイメージしているらしいCDについては、ユダヤ回帰云々とはまったく別のものに見えるし、しかしその興味の源泉がよくわからないのだ。
最近出たmasada book 2: astarothというのがあって、ピアノトリオだけれど、これも最近のWIREを見ていたら「なぜアスタロトか」ということに記事が集中していた。要は曲名が全部、天使の名前で、book of angels。中身は一連のマサダ関係の延長で、個人的には楽しめるけれど、少なくとも見た目としては当初のマサダのコンセプトとは全然ちがうのは瞭然だろう。ほかにも「ネクロノミコン」とか「儀式」とか、アレイスター・クローリーとかラブクラフトとか、それらしい固有名詞がいくつも出てくる。実は、単に面白いから、という理由からかもしれないけれど、一見シリアスなユダヤ回帰からオカルトに行くとはびっくりした(それ以前の、ゴダールやB級映画からユダヤへ、ポストモダンからメロディ重視への変化も、立ち会った人にはびっくりだったのだろうと思う。またパレスチナに関与していたジュネからクリスタルナハトという移動は、政治的にみると立ち位置がかなりわかりにくいのではないか。政治的に見るのが間違いなのかもしれないけれど)。音楽自体も「Gift」とか「IAO」が出たあたりから、だいぶ変わってきているように思う。
このあたり、なかなか判然としない。それでも当分の間はこのレーベルだからとCDを見ることになるのだろうとは思うけれど。