今年の後半は、何度も大友良英氏のライブに行ったけれども、ここのところ聴いていたのは、実はデートコースペンタゴンの「全米ビフテキ連盟」だった。これは多くのファンはどうかわからないけど、かなり良いと思う。とにかくノンストップ、長いけど、何回流しても飽きない。曲というよりも、まさに現場でライブを見ているような気分で、買ったときは予想以上の値段にのけぞったけど、充分、それ以上の使用価値があった。
ということを書こうとしていて引きこもり続けていた間に、遂にジョン・ゾーンの「エレクトリック・マサダ」の新譜を買ってしまった。まあ、色んな人がケチつけてるのかもしれないけど、個人的にはなんだかんだで素晴らしいと思う。もう、クレズマーだのなんだのと、どうでもよろしい。全体的にハードロック(ハードロックの定義が良く分からないけど、とにかくバリバリのギターにドラムで爆音全開)寄り、これを聴いて暴力沙汰に走る人がいるんじゃないかというくらいに(あるいは暴力沙汰に走ろうとしていた人がスッキリして止めてしまうんじゃないかというくらいに)、ブチ切れた感じが横溢している。ジャケットもパッケージも完璧と思うほどに良い。前にも書いたけど(10月6日くらい)、このタイトル(At the Mountains of Madness)、たぶん(ちがっていたら恥ずかしいけど)ラブクラフトの「狂気の山脈にて」の原題じゃないかと、当てずっぽうで思うんだけれども、ハードロックによくあるゴスだの黒魔術だの、そんなものはどっかにやって、もう宇宙である、極地である、おぞましき神々である。クレズマー・ミーツ・コールマンなどどっかへ行ってしまった。しかし何の問題があるのか。2枚組で、しかも安い。怒濤。やたらとキャッチーな曲が何曲か2枚両方に入ってるんだけど、一方を聴いて「もう飽きたな」と思いきや2枚目を聴くと、これまた飽きない。とくにその重なって入っている曲は、そうとうに衰弱している人でも聴いているうちに、指か足でリズムを取っちゃうんじゃないかというほど、強力。しかも、ありがちな男臭さもないし、受け入れられないとすれば、音がデカすぎ、音の数が多すぎることくらいだろう(これは非常に大きなハードルだけど)。
ちょっと落ち着いて聴くと「なんかクリムゾンっぽい」「なんかROVOっぽい」というような「・・・っぽい」という印象も受けるけれども、そんなことはどうでもよろしい。やたらイントロが長くて、あれこれ一聴しただけでは聞き取れないほど手が込んだ演奏もしているけれど、でもそんなの良いじゃん、楽しければさ、という勢いに満ちあふれている。クリシェばかりだろうが、マサダも10年もやってればクリシェだらけ、でもかまわない。とにかく、自制していないというか、ネイキッド・シティにあった苦しげな緊迫感よりも、行けるところまで行ってしまえというか、行けるところまで行ってやりたい放題というような全開ぶりだ。ドラムス二人、パーカッション、エレクトロニクス、キーボード、ベース、ギター、サックスという編成で、全員誰もがバンドリーダーになれるはずが、その面子でもうとにかくやりたい放題(この、恥も遠慮もなしというのが実は凄いと思う)。ありとあらゆる手が注ぎ込まれ、音の隙間が一切なし、変なラウンジみたいのも沢山入ってて、文句のつけようもない。
さぞかしネットで話題かと思いきや、「はてな」で見た限り、全然とりあげられていないから、道に迷って来てしまった人に向けて書いてみた。ジョン・ゾーンの中では、かなり聴きやすいというか受け入れやすいものだと思う。ぜんぜん小難しくないし、全曲外れなしじゃないだろうか。こんなのを聴いた中学生とか、将来どうなっちゃうんだろうと思ったりする。