日常のつづき8

今日も自宅から。現在は20日の午後11時50分。まもなく21日になる。
計画停電のない2日目。

今日は街へ出る。午後3時過ぎに、まず大山に。ここは、東上線沿いにある、大きな屋根付きの商店街で有名な場所だ。その商店街とは反対側からアプローチし、駅前のエクセルシオールに入る。

ある程度、予想していたが、人の数が多い。ひょっとしたら、普通以上に多い。
驚いたのは、店内が暗いこと。そして混んでいること。たまに見かける常連だけでなく、年齢性別を問わず、さまざまな人がいる。そして、普通に会話を交わしている。

どうやら、日常は、そろそろ新しい形に着地しつつあるのかもしれない。もう聞こえてくる会話も、かならずしも地震の話題ではなく、噂話であったり、旅行の話であったり、生活の諸相の話であったりする。
声も、笑い声だけではなく、グチや、あるいはフラットな普通の口調になっている。沈黙でも、笑いでもない。日常的な会話。ちがうのは、店内がとても暗いことくらいだ。



店を出て、池袋に出てみようと、駅に入る。すると、清掃員のオジサンが、掃除をしながらマスク越しに鼻歌を歌っていた。それにあわせて、声としては響かないハーモニーを重ねてみる。
ハミングがきこえる。



池袋も混んでいた。友人の集まり、カップル、家族連れ。数日前まではみられなかった、ごく普通に「買い物」をする光景。
ひとつだけ違うのは、時間だ。夜の7時を過ぎると、多くの店舗が閉まり、人の波は駅に消える。つまり、2時間ずれている。夜の8時で、すでに10時のような雰囲気。


さぬきうどん屋に入って、簡単な夜食。となりのカップルが、イケガミアキラの話題をしていた。まったくの日常。


そのあと、地震後にはこれまで行っていなかった、文芸座ちかくのベローチェに行く。ここは、なぜか知らないが、アニメやマンガのオタクの方々が一部の席に陣取り、同人誌らしきものを描いていることが特徴。池袋の、また違った一面だ。ちなみに、ときおりその隣りにヤ○ザの方がいるときもあり、なにか目眩を催したりする。

そして、当然のようにその作業は、今日も続けられていた。白い紙に、何かの絵が描き出されていく。そのとなりに、どこで売っているのかゴツいスーツの方がお一人。
ここにも、日常がある。



新しい一面。外へ出る。と、すぐ向かいのラブホテルが灯りを落としていて、何かの巨大なオブジェのようになっていた。すこし進むと、ここにはいつも客引きのお姉さん(ここはロサ会館側とは違い、客引きが女性によってもおこなわれる)がいるのだが、姿が見えない。

つまり夜の街が暗い。あるいは、夜の街が、夜に溶け込んでしまっている。



最後に、パルコ前で駅の反対側に抜け、ぐるっと西口公園にでる。夜9時。すでに静かで、暗い。

かつてナンパ・コロシアムと呼ばれた噴水前の広場で、そっとタバコを吸ってみる。男女の影もない。最近までどこか赤茶けていた夜空は、いまは濃紺だ。タバコの煙が立ち上っていくのがみえる。


ぶらぶらしてみると、段ボールを寝具にしている方々の、ラジオの音が、ちいさく聞こえてきた。

新しい日常のなかの、日常のつづき。その音。
目には見えないが、それを聴く。



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