作用と持続 7.3

いきなり非常にどうでもいいが、プロフィールに「めんどうくさがり屋」というのを追加しようかと思い立つ。そういう職業。なにかを売っている。
なにを売っているのか。めんどうくささ・・・めんどうくさくなる気分・・・めんどうくさい。どうでもいいが、それを考えるのが面倒くさい。あまりもなんというか、すべてが面倒だ。
そんな職業。




ふと思うのだが、いま、ニホンのあちらの方のために進められているだろう都市計画案に、そういうお店が入っていたら、どうなるのだろうかと想像する。


ある商店街。お魚屋さんがあって、八百屋さんがあって、酒屋さんがあって、その隣にめんどうくさがり屋さんがある・・・
たぶん、主人はコワそうなオヤジがやっているのではないか。ものすごいコワい顔をしている。けれど、基本的なスタイルとしては、机のうえにアゴをのせていて、目はトロンとしたかんじ。やる気がない。なぜなら面倒くさいから。
たぶん商品は、たくさんある。けれど、どれにも値札は貼っていない。なぜなら面倒くさいから。お客が来て、それいくらですか、と訊いたら、ギロリとにらまれる。返事そのものがめんどうなのだ。



そんな商店街は、たぶんちょっとした観光名所になるかもしれない。変わったお店のある商店街として。ツアーとか組まれたり。
たくさんのお客が、バスかなにかに乗って、やる気満々で訪れる。地味を生かした八百屋さん、地酒のある酒屋さん、とれたての鮮魚のある魚屋さん。テンションはあがりつづける。
・・・が、最後はけっきょく、みんなで机の上にアゴを乗せて、うつろな目で天井をみつめることになるだろう。どうやら面倒くさくなってしまった。あーあ。休んだら、とりあえず帰るか。
そんな日帰りバスツアー



たぶんそのお店は、けれどずっといつまでも開いている。閉めるのが面倒くさいからだ。他のお店が閉店しても、シャッターをおろしても。
あるいは、高齢化や過疎化で街が衰退し、まわりがすべてシャッターだらけになったとしても、そこだけは開いている。閉めるのがめんどうだから。ただそれだけの理由で。


そんなお店を、こっそりと色んな人が訪れるかもしれない。たしかに、やる気のある人は、めんどうくさくなって帰ってしまう。でも、やる気といっても色々あるのだ。なかには、睡眠薬をたくさん飲むヤル気に満ちている人だっているだろう。多くの人の悪意に疲れて、逃げることだけに一生懸命のひとだっているだろう。これからの未来の労苦を想像して、疲れてしまう人だっているだろう。そういう人が、こっそりとやってくる。


そこでは、さしあたりすべてが面倒くさくなる。他人の嫉妬、悪意、失望、恨み、そんなことに悩むことが面倒くさくなる。まあいいか、と、何かに絶望することが、面倒くさくなる。


ああ、めんどうくさいね。めんどうくささ、プライスレス。
そう言って、シャッターだらけの商店街で、たったひとつだけ店を開けているめんどうくさがり屋さんは、今日も地道に繁盛している。
なぜなら、あらゆる絶望に面倒くさくなったあと、地上に残されたのは、ただ希望だけだったから。
(AS#3)



**