札幌国際芸術祭おぼえがき4

参加や協働を謳うリレーショナル・アートの奥底からむしろナムジュン・パイクを祖の一つとするようなメディアアートの最先端の現場へと引きずり出されたようなSIAFの会場とは、しかしつまり札幌であり、そこを歩くことは同時に札幌の街を歩くことに他ならなかった。


これほど札幌の街を東西南北と歩き回ることは、そうない経験だろう。札幌駅の階段を上がってからあとは、南北に通る目抜通りから大通公園を西に、ススキノの中心部を縦断し、川を渡ってゲストハウスまで行く。走り回る市電を眺めて朝食を探し、東急ハンズの側で夕食を求め、いくつものコンビニエンスストアでコーヒーにチキン、ソーセージ、コーヒー・・・
普段の旅行なら、大通公園をゆったり歩くか、時計塔の足元まで赴くか、ビール園でジンギスカンをむさぼるか。そうしたルーチンに終始しそうな札幌への旅は、むしろほとんど住人とかわらぬ生活に収まって過ごした。




札幌の南側、都市部が途切れそうな南端にトオン・カフェという小さなギャラリー兼カフェ・レストランがある。店内はカウンターと机がいくつか、奥に展示スペースのある場所についたのは、水曜日の夜8時ごろだったと思う。客は一人で、展示を見に来たけれど疲れたのでコーヒーをくださいと言って、その後どういう会話でそうなったのか覚えていないけれど、お店の方から話を聞く、というより、話をする、ようになっていた。明日は芸術の森モエレ沼に行く予定で、というと、時間配分のことなどを経験から教えてもらう。資料館にあった熊の展示がすごく良くて刺激を受けた、というと本を持ってきてくれて、たくさんの熊の彫刻についてあれこれ品評して、そういえばあの展示はロンドンにある、デザイン美術館でもあるヴィクトリア&アルバートミュージアムによく似ている、学生やそうした仕事をする人も参考になるはずだと思ったことを、思い出したりした。
札幌街中の展示はどうですか、と言われて、激しいノイズが多いけれど、鈴木さんの「聴く」作品などが好きな人なら、きっと受け入れられるのではないかしら、などと本棚の上に置かれていた「WIRE」の表紙を眺めながらいう。



壁際に置いてあった新聞を眺めると、軍事問題についての時事項目が多くあった。そういえば今年のアート評論を眺め、最近の動向と傾向を学んだつもりになってみれば、今年の最大のトレンドはドクメンタで、一つの展示を見るのに30分はかかる、コンセプチュアル・アート政治的主張の合わせ技と言われているような膨大な展示群に欧州の人たちが押し寄せているという。
たしかに、難民、環境、欧州連合危機、政治つまり独裁と民主主義、弾圧、宗教、暴力、政治や社会問題には、もちろんあれこれ考えることはある。
そう思って新聞を閉じて、煙草の火を消した。


それから再び、芸術祭の会場へと戻ることにする。