札幌国際芸術祭おぼえがき6 備忘録

備忘録


9月6日水曜日
支度をして外出する。8時ごろ。これから12時ごろの便で、成田から新千歳へ。LCCの利用は初めて。そういえば成田までの交通費や新千歳から札幌までの交通費を準備していなかったと思い出す。駅改札で、予定分の額をICカードにチャージ。これで使い切って帰ってきたい。
まず中途で、京成スカイライナーで成田。スカイライナーは本数が少なく、3本のがせば飛行機に間に合わない。無事に切符を購入できたがICカードは使えないと言われ、予定分が無駄にチャージされたまま札幌へ行くことになる。約1時間ほど。成田でサンドイッチをたべる。
成田では問題なく通過。予約した番号を打ち込むとレシート一枚が出てきて、これが搭乗券だという。飛行機はエアバスという感じで、90分で新千歳へ着く。飛行機の中でガイドブックを読んだ。一つだけ、普段東京でパフォーマンス終了後はなかなか話しかけにくい音楽家や作家の人たちと、どうせ札幌なら気楽に話しかけてみようと目的を決める。あと、つまらなかったら詰まらないということにした。


2時。まず空港で牛丼屋に。空港で芸術祭のポスターを見て、現地入りしたことを実感する。新千歳から札幌へ、また移動。チケットを窓口で買うと、ここでもICカードは使えませんと言われる(実際は指定席でなくても良かったことは、乗車してからわかった)。チャージした朝の時間はなんだったのかと思う。
札幌駅。北口らしいというので北口に行くと天井に大風呂敷が垂れている。こういう光景は、実は東京では見たことがない。しばし無駄に歩き回り、案内所で地図をもらう。歩いていけますか、というと、行ける、と言われたので、行くことにする。
駅から地上へ。まずICカードに費やしてしまった現金のために銀行へ行った。午後3時だ。



目抜通りはほとんど東京と変わらない。チェーン店も多い。スタバもあるし、まるで普通だ。あえて言えば、人々の頭髪の色が、染めている人は少ないようで、黒髪がほとんどである。あとは都市部ということで変わらないだろう。


大通りから電車に乗り、資料館へ向かう。乗り場でぼんやり左右を見ていたら、テニスコーツのさやさんが知人?と一緒に乗りに来ているのが見えて「あ、居る」と思うが、そう思う間に駅へ。駅の出口の何番がいいのか地図を凝視していると、またさやさんと知人が背後を通る。着いていこうかと思ったが、どこに行くのか知らないのでまた地図へ。
地上から資料館へ行く。少し遠くをテニスコーツが歩いていて、「あれやっぱり」と思うが、足が速くて、その姿は遠のいていく。大通公園では出店の準備がされていて、もう数日でお祭りらしい。



資料館は趣きがあった。
資料館でパスポートを購入。NMAアーカイブを見る。まだ予定があるけれど、とりあえずとということで年表を開く。多い。人名一覧にかえる。1983年から現在までのアーカイブがあるということに衝撃を受ける。小杉武久のライブ演奏を見る。飛ばす。マークレー、飛ばす。他に、ボブ・オスタータグのカルテット。見入る。サンプリングを生演奏に乗せるというより、サンプリングが全体を支配していて、生楽器はその中に入って演奏している感じだ。サンプリング演奏として初めてみる形態。非常に重要なアーカイブであると感じる。特に音楽を学んでいる学生や演奏家にとっては垂涎のはずだ。そういう人は来た方がいいと強く感じる。


階段で2階へ。テニスコーツが居て、何かお話中。奥に行くと札幌文化アーカイブ調査、手製の新聞発行所のさかな通信。そして北海道の熊の彫刻の展示。
展示は圧巻だった。見ると沢山の熊の彫刻、その一つ一つが少しずつ違う。中には劇的に抽象化されたものもある。解説は一切なし。展示棚の上、机の上に50も30もそれぞれ置いてある。裏へまわると次第に立ち上がる熊も登場し、鮭をくわえているばかりか、二足歩行で鮭をぶら下げているものまであった。具象と抽象と笑いの間を行ったり来たりしているというべきか。
後で解説を読むと、これらは現代的な規格化された「お土産の木彫りの熊」以前の、職人によるものなのだという。特にアイヌの人々が作り、中には際立って抽象化された(ほとんど多角形にしかみえない)ものまで、個人の趣向で作られることになった。近年それが再評価されて、こうした展示に至ったのだという。質の高い展示だと思った。時間があったら来なければとおもう。



階段を降りるとSachiko Mとすれ違った。本当に札幌に来ている。


大通駅へ戻り、目抜き通りを南下。日が落ちて夜になり、方向音痴としては迷子になりやすい環境だ。札幌は碁盤の目になっていて、どちらを見ても同じにしか見えない。位置情報があれこれのアプリに転送されるのが面倒なので、グーグルマップは使っていなかった。ついに使うときだろうか。



まずドミューンを目指し、ススキノあたりを地図通りに歩くと、ポスターを見かけて立ち止まる。ゲームセンターのようだが7階にあるらしい。エレベーターで上がると梅田哲也展示だった。金士館ビル。暗い。パスポートも携帯ライトで照らされて確認される。何人かガイドの方がいるようだ。こちらですと案内されて中へ入る。


すでに部分的に写真で見ていたが、写真から想像されたのは冒頭だけで、途中からは全く別物だった。
個人的に理解したかぎりでは、これは音響空間を基本に扱った作品のように思えた。目には見えない、音で成立する空間が素材として扱われている。歩くと音の距離が変化し、また距離を無視した音がノイズとして響く。視界は暗さのために部分的にしか役立たない。見えるものと聞こえるものの空間の位相がずれているようだ。
いくつもの水滴の音も撹乱された空間をおもわせる。置かれたスピーカーや電話などのオブジェに惹きつけられていると、暗闇の奥で動く影があり、これも展示かと思ったらガイドさんで、親切に窓の作品について解説してくれる。その間も壁をコツコツとあちこちから叩く音がしており、不気味さが極まったが面白かった。また最奥部に置かれていた自転車になぜかゾッとする。まるで黒沢清のホラー映画の廃墟のようだ。
出方がわからず、ガイドさんに案内してもらってようやく出た。大作だ。




再び地図を見ながらススキノを歩き、派手なビルにポスターを発見する。中へ入ると完全に飲み屋街の建物で、地下には実際に居酒屋が並んでいるようだ。その地下の階に展示があった。
ドミューンはピンク色の部屋、ターンテーブル、そして山川冬樹の映像作品。とりあえずキャバクラだったらしい空間であちこちの椅子に座ってみて、チェックインが予定より遅れそうなゲストハウスにその旨の電話などをかけたりしながら、ふんぞり返ってみたりする。奥に山川作品があり、見ていると強烈に肌を撫でられているような気配があり、そのまま見入ってしまう。置かれてあるドレスと仮面と、スクリーンをなんども見比べた。



隣は会館と酒場の出店が一つずつ。どちらもエロティシズム全開の博物学という趣きで、たくさんの女優のグラビア、ヌード絵画、炭鉱写真などが配列され、生・聖・性そして死が並置された異様な空間となっていた。どれもが過去のものばかりでイマイチ興奮しないかもと思っていると、時折、最近のグラビアの切り取りがあって抜かりがない。特に、時代を思わせるややふっくらした色あせたグラビアの間に「スリムビューティーハウス」の釈由美子のこれでもかという細い体の扇情の形式が貼り付けられているところは、思考というより感覚の回路を混乱(という刺激)させられる。出口付近にも最近のものがあるようで、時代的な統一感を欠いたエロティシズムの博物学だろうか。
そのさらに奥に秘宝館のドキュメント映像があり、しばし眺める。



まだ終わらない。さらに上の階にもありますと言われたのでエレベータで上階へ。端という方の展示があった。すでに情報量過多だったが、手前の展示室を抜けるといきなり冷ややかな空気に目が冴える。
気化と液化を循環させるという作品は、だが何よりも儀式的なおぞましい雰囲気に収まっていた。まるで帝都物語に出てくる機械のようだ。薄暗い広大な部屋と装置、黄金色の照明などによるのだろうか。こうした雰囲気は嫌いではないので、しばし眺めたり写真を撮ったりする。



まだ終わらない。ビルを出て、とりあえず直進する。中華屋があったので入り、味噌ラーメンを注文。一服。SNSなどをチェックする。カウンター席の人が食べているレバニラにライスの組み合わせがひどく旨そうだ。
食事を終えて、次の目的地に向かうところで完全に道に迷う。




ススキノで、堀尾展示に完全に打ちのめされる。直感で「これはノイズだ」と思う。これについては、また書くこともあるかもしれない。



夜8時頃、トオン・カフェにたどり着く。コーヒーと喫煙。明日の予定などについての意見をもらう。木彫り熊の本なども見せてもらう。電車でゲストハウスの最寄駅へ。駅から宿まで再び迷う。9時過ぎにチェックイン。一階のバーではギターを弾き歌う若者たちがいた。二階へ上がり、二段ベッドの一段目をもらう。
共有スペースを覗くと誰もいなかったので、パソコンを開く。フェイスブックなどに書き込み。メールチェック。ノイズ専門レーベルのハーシュノイズムーヴメントから、外套名義の音源が収録されたコンピが出ていた。深夜に近くのコンビニに行き、飲み物と軽食を購入して歩きながら食べる。まったく札幌だ。